残業後、終電間際の電車に揺られながら、ぼんやりスマホをスクロールしていた。今日はタナカ課長に「この資料、やり直しね」を3回くらった日で、もう脳みそがスポンジみたいにスカスカだった。何も考えたくない。でも寝たら明日が来る。明日が来たらまた会社に行かなきゃいけない。その恐怖から逃れるために、私はいつも通りマンガアプリを開いた。
おすすめ欄に表示されたサムネイルが妙に気になった。金髪碧眼の幼女が、軍服を着て不敵な笑みを浮かべている。『幼女戦記』。タイトルのインパクトがすごい。幼女?戦記?どういう組み合わせ? しかも「超合理主義エリートサラリーマンが転生したのは、なぜか幼女だった」って。……いや、情報量が多すぎる。普通の異世界転生かと思いきや、なんかもう全然違う匂いがする。気になりすぎて1話を開いた。
それが間違いだった。いや、正しかった。終電を降りて、家に着いて、風呂に入って、布団に入って、まだ読んでた。気づいたら深夜2時。明日も仕事なのに。でもページをめくる手が止まらない。「合理的に生きたいだけなのに」っていう主人公の叫びが、なんか他人事じゃなくて。疲れた社畜の脳に、この作品はやばいくらい刺さった。
今日のユウのため息 ── 意味のない社内業務 ──

…まあ、愚痴はこのへんにして。今日の本題いくわ。
作品情報 ── 幼女戦記

| 作品名 | 幼女戦記 |
|---|---|
| 作者 | 東條チカ, カルロ・ゼン, 篠月しのぶ |
| シリーズ | 幼女戦記 |
| ジャンル | ファンタジー, 異世界系 |
要するにこういう話だ。現代日本の超合理主義エリートサラリーマンが、神様的な存在(あらすじ的にそういうことだろう)の手によって、異世界の幼女に転生させられる。ただし、その異世界は魔法と小銃が入り乱れる戦争真っ只中の世界。主人公は軍に所属していて、本人としては安全な後方勤務でのんびり出世したい。それだけが望みなのに、なぜか実力が認められてエースとして祭り上げられてしまう——という、本人の望みと現実が真逆に進んでいくタイプのお話。
一行でまとめると、「合理主義サラリーマンが幼女に転生したのに、安全な人生どころか最前線に送り込まれ続ける悲劇(でも強い)」。異世界転生ものでありながら、チートでハッピーどころか、有能すぎるがゆえに苦労が増えていくという皮肉。……なんか身に覚えがあるんだけど。仕事できる人ほど仕事が降ってくるやつ。あれの異世界版じゃん。
見どころ①:「有能なのに報われない」って、それ私の会社でも見たことある
この作品の設定で一番ぐっときたのは、主人公が「安全な後方勤務を望んでいるのに、優秀すぎて前線送りにされる」という構造だ。あらすじを読んだだけで胃が痛くなった。これ、異世界の話じゃなくて普通に現代社会の話じゃないか? 仕事を効率よくこなしたら「じゃあこれも頼む」って追加業務が降ってくるやつ。評価されるほどに負荷が増えていくあの理不尽。それを魔法と銃弾の世界でやっているのがこの作品の恐ろしさだと思う。
魔法と小銃が共存する世界観というのも、いわゆる剣と魔法のファンタジーとは一味違う。あらすじから察するに、近代戦争に近い雰囲気がありそうで、そのリアルさが「異世界だけど甘くない」という空気を作っている気がする。チートスキルでイージーモードの異世界転生も好きだけど、こういう「転生先でも楽させてもらえない」タイプは、なんというか……リアリティが違う。現実も異世界も、有能な人間ほどこき使われるんだなって。
しかも主人公の根っこが「合理主義サラリーマン」なのがいい。感情で動くタイプじゃなくて、徹底的に損得で考える。それなのに思い通りにいかない。合理的に考えた結果が裏目に出る。その「計画通りにいかなさ」が、こういう話の面白さなんだろうなと思う。私も毎日「今日はこのスケジュールで進めれば定時退社できる」って計画立てるけど、タナカ課長の急な修正依頼で全部崩壊する。主人公の気持ち、痛いほどわかる。
この手のジャンルって、主人公が無双して爽快! というパターンが多いけど、この作品は「強いのに幸せじゃない」という矛盾が軸にあるっぽいのが独特だ。戦場で活躍するほど前線から離れられない。出世するほど危険な任務が回ってくる。その構造自体がストーリーを引っ張っていて、あらすじだけで「この先どうなるんだ」って気にならせてくるのがずるい。
見どころ②:中身おっさんの幼女、というパワーワードに宿る魅力
この作品の主人公、見た目は金髪碧眼の幼女なのに、中身は合理主義のエリートサラリーマン。このギャップがもう、設定の時点で面白い。幼い見た目で冷徹な判断を下すってことでしょ? 上官や部下からしたら、得体の知れない化け物みたいに見えてるんだろうな。周囲がどう反応するのか想像するだけでニヤニヤしてしまう。
私が特に共感するのは、主人公の「とにかく安全に、楽に生きたい」という本音の部分だ。別に世界を救いたいわけでも、英雄になりたいわけでもない。ただ安全な場所で平穏に暮らしたいだけ。……わかる。わかりすぎる。私だって会社で目立ちたくないし、面倒な仕事は回ってきてほしくない。でも真面目にやればやるほど仕事が増えるあの感じ。主人公が「後方勤務希望」なのに前線送りにされるの、ミカ先輩が「ユウちゃん、この案件もお願いできる?」って笑顔で追加業務投げてくるのと同じ構造だ。笑えない。
あと、あらすじからは明確なキャラ名は出てこないけど、軍隊ものということは上官とか部下とか、いろんな人間関係があるはずだ。合理主義の主人公が周囲の人間とどうぶつかり、どう使いこなしていくのか。組織の中で生き抜く知恵みたいなものが描かれているとしたら、それはもうビジネス書より役に立つかもしれない。少なくともタナカ課長への対処法よりは、戦場のほうがまだ明確なルールがありそう。
「幼女の姿で冷徹に振る舞う」というビジュアルの強さも、この作品ならではだと思う。かわいい見た目と中身のギャップ。それが怖くもあり、かっこよくもあり、どこか哀しくもある。本人は好きでこの姿になったわけじゃないだろうし。転生って、選べないからこそ残酷なんだなって。
見どころ③:爽快なのに苦い——戦場で無双する快感と、その先にある皮肉
この作品のジャンルは異世界転生だけど、その核にあるのは間違いなく「バトル」だと思う。魔法と小銃が飛び交う戦場で、幼女の姿の主人公がエースとして活躍する。あらすじから察するに、戦闘シーンの迫力はかなりのものだろう。東條チカ先生の作画で描かれる戦場って、ページを開いた瞬間の緊張感がすごそうだ。圧倒的な力で敵をねじ伏せる爽快感。それが異世界バトルものの醍醐味のひとつだと思う。
でもこの作品が独特なのは、その爽快感の裏に「活躍すればするほど前線から逃げられない」という皮肉がセットになっているところだ。普通のバトルものなら強くなることは喜びだけど、この主人公にとっては強さが足枷になる。勝てば勝つほど評価され、評価されるほど危険な任務が来る。そのジレンマが、ただの爽快バトルで終わらせない深みを持たせているんだと思う。敵を倒してスカッとするのに、どこかでモヤッとする。その複雑さが癖になりそうだ。
読んでいて思うのは、結局これは「実力に見合った対価が返ってこない」話なんだよなということ。頑張っても報われない。成果を出しても自分が望んだ形では返ってこない。……あれ、これ私の人事評価の話だったっけ。いやいや、異世界の戦場の話だった。でも結局、フィクションの爽快感に浸っても、朝になれば私はスーツ着て満員電車に乗るんだよな。戦場で魔法は使えないけど、Excelの関数なら使える。それだけが私の武器。
見どころ④:「出世したいけど前線には行きたくない」——全社畜が泣いた
この作品の主人公の願望が「出世&安全な後方勤務」って、もうこれ社畜の夢そのものじゃないか。給料は上げたい。でも責任は増やしたくない。楽なポジションで適度に評価されたい。それ、私が毎日思ってることだ。なのに現実は、ちょっと仕事ができるだけで「ユウさん、これリーダーやってくれない?」って言われる。やりたくない。でも断れない。そして気づいたら最前線。主人公と完全にシンクロしている。
タナカ課長なんか、きっとこの作品の上官に近い存在だと思う。部下の希望は聞かないくせに、成果はしっかり求めてくる。「お前は優秀だから」って言葉、褒め言葉に見せかけた追加業務通知書だからね。ミカ先輩にこの作品を教えたら「あー、ユウちゃんのことじゃん」って笑いそうだし、ユナちゃんは「えー、かわいそう〜」って言いながら定時で帰りそう。……いや別にユナちゃんが悪いわけじゃないんだけど。
同じように「頑張りすぎて損してる」と感じている全ての社畜に、この作品は刺さると思う。主人公の嘆きは、私たちの嘆きだ。合理的に生きたいだけなのに、組織がそうさせてくれない。異世界でも現実でも、サラリーマンの苦悩は変わらないんだなと思うと、笑えるような泣けるような。
ユウの本音まとめ
正直、『幼女戦記』はタイトルで食わず嫌いしていた作品だった。「幼女」って単語がタイトルに入ってるマンガ、ちょっと警戒するじゃないですか。でも読み始めたら全然違った。中身は骨太の戦記もので、主人公の合理主義的な思考がめちゃくちゃ面白い。異世界転生の皮を被った、組織論と生存戦略の物語だと思う。少なくとも、あらすじと序盤の印象だけで言えば、間違いなく「頭を使って楽しむ」タイプの作品だ。
それにしても、有能すぎて損をする主人公を見ていると、自分の会社での立ち位置を嫌でも思い出してしまう。私はエースなんて呼ばれる器じゃないけど、「頼まれると断れない」「真面目にやりすぎて仕事が増える」という構造は同じだ。主人公が戦場で奮闘する姿に、なぜか「明日も頑張るか……」という気持ちにさせられるのが不思議だ。いや、頑張りたくはないんだけど。
現実はクソだし、転生もできないし、魔法も使えない。でもこのマンガを読んでいる間だけは、私も主人公と一緒に「なんで楽させてくれないんだよ」って叫べる。その共感があるだけで、なんとか明日も出社できる気がする。次の巻が出たら、また終電の中で読む。それが私の戦場だ。

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