飲み会を断って帰ってきた水曜の夜。「ごめん、今日ちょっと体調が……」って嘘ついた罪悪感を、熱いシャワーで洗い流したはずなのに、風呂上がりにスマホを開いたらまだ胸のあたりがモヤモヤしていた。別に飲み会が嫌いなわけじゃない。ただ今日は無理だった。それだけ。でも「断った自分」をどこかで責めてる自分がいて、そういうときの私はだいたい電子コミックアプリを開く。
おすすめ欄にずらっと並ぶ異世界モノの中で、ふと目が止まったのがこのタイトルだった。『役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます』。長い。異世界モノのタイトルって毎回長いけど、今回のはなんかグッときた。「日陰の勇者」って言葉に。功績は人に譲って、自分は姿を消す。それで辺境で自由に生きる。……え、何それ、私の理想の老後じゃん。いや老後って言うほどの年齢じゃないけど、でもこの「もう十分やったから、あとは好きにさせて」感、わかりすぎて泣きそうになった。
気がついたら読み始めていて、「ちょっとだけ」のつもりが1巻最後まで止まらなかった。髪も乾かさないまま布団に潜って、スマホの画面だけが光ってる部屋で、私は完全に辺境の地に飛んでいた。
今日のユウのため息 ── 季節の変わり目の体調崩壊 ──

…まあ、愚痴はこのへんにして。今日の本題いくわ。
作品情報 ── 役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます

| 作品名 | 役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます |
|---|---|
| 作者 | 船野真帆, 丘野優, 布施龍太 |
| シリーズ | 役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます |
| ジャンル | ファンタジー |
要するにこういう話だ。王子率いる勇者パーティーで荷物持ちをしていたクレイっていう男が、実は単独で魔王を倒しちゃうくらい強かった。でもその功績を王子に譲って、自分はこっそり姿を消す。で、向かった先が「辺獄」と呼ばれる、誰もが開拓を諦めた辺境のヤバい土地。そこを【鑑定】と【模倣】っていうスキルで自由に切り拓いていく、っていう辺境開拓ファンタジー。
「荷物持ちが実は最強でした」って、異世界モノのお約束と言えばお約束なんだけど、このクレイがいいのは、追放されて仕方なく辺境に行くんじゃなくて、自分から消えるところ。功績を人に譲って、邪魔になりたくないから去る。なんだろうこの……「私がいなくても回るでしょ」感。会社でめちゃくちゃ仕事してるのに、評価は上司に持っていかれて、でも文句も言わず静かに異動届を出す人みたいな。いや、それは違うか。でもなんか、わかる。
見どころ①:「功績を譲って消える」という設定だけで白飯3杯いける
この作品の一番の引きは、やっぱり「本当に強い人間が、表に出ない」という構造だと思う。魔王を倒したのはクレイなのに、その手柄は王子のもの。しかもクレイ自身がそれを望んでいる。これがただの「実は俺、強いんだけど?」系のイキリだったら正直そこまで刺さらなかったと思う。でもクレイは「邪魔になりたくない」って理由で消えるのだ。この謙虚というか、身の引き方というか、「自分の役目はもう終わった」っていう潔さ。ああ、これは刺さる人にはめちゃくちゃ刺さるやつだ。
そして行き先が「辺獄」っていうのもいい。誰もが開拓を諦めた地獄みたいな場所。怪物がひしめく未開の地。普通なら避けるような場所に、あえて一人で向かう。これって要するに「誰にも邪魔されない場所で、自分のペースで生きる」ってことでしょ。辺境開拓って聞くとスローライフ的なほのぼの感を想像するけど、相手は怪物だらけの未開地だから、そこを圧倒的な実力で切り拓いていくカタルシスもあるんだろうなと。静かに暮らしたいけど、実力はバケモノ級。この緩急がたまらない。
【鑑定】と【模倣】っていうスキル構成もいい。勇者パーティーの技術を全部吸収してるってことは、仲間たちの魔法も剣技も全部使えるってこと。いわば「全員分のスキルを一人で持ってる」状態で辺境を開拓していく。あらすじを読む限り、元仲間や敵が放っておかない展開もありそうで、「静かに暮らしたいのに巻き込まれる」系の流れも期待できる。隠居したいのにさせてもらえない強者、っていう構図がもうたまらなく好き。
現実でさ、「もう十分やったから放っておいてほしい」って思う瞬間ないですか。私はある。月末の締め作業を一人で片付けた翌日に、別の案件を振られたときとか。クレイの気持ち、わかるんだよなぁ。
見どころ②:クレイ、お前のその「別にいいです」感が私を泣かせるんだよ
主人公のクレイ。あらすじから察するに、この人は「自分が評価されること」に興味がないタイプだ。魔王を倒す実力があるのに荷物持ちに甘んじていて、手柄を王子に譲って、さらに自分から消える。……あのね、現実にこういう人いるんですよ。うちの職場にも。後輩のユナちゃんの企画が通ったとき、実は裏でデータ全部まとめてたのはミカ先輩だったみたいな話。で、ミカ先輩は「別にユナちゃんの企画だし」って涼しい顔してるの。かっこよすぎて逆に腹立つやつ。クレイもたぶんそういうタイプだ。
で、この「周りが放っておかない」っていう展開。元仲間も敵も、クレイの異次元の強さを知ったら黙ってないわけでしょ。自分から離れたのに追いかけてこられる、っていうのは面倒くさいけど、ちょっと嬉しくもあるよね。私だったら面倒くささが勝つけど。でもフィクションとして見る分には、「お前がいないとダメなんだ」って言われるのは……まあ、悪い気はしないよね。会社では一度も言われたことないけど。
王子率いる勇者パーティーの面々もあらすじだけだと詳しくはわからないけど、荷物持ちだと思ってた人間が実は最強だったって知ったときの反応、絶対面白いでしょ。この手のジャンルの醍醐味って、「見下してた相手のとんでもない実力を知って驚愕する」あの瞬間なんだよなぁ。私は別に誰にも見下されてないけど。いやされてるかもしれないけど。とにかく、クレイが淡々としてればしてるほど、周りのリアクションが映えるんだと思う。
タナカ課長にも見せたい。「いなくなって初めて気づく存在の大きさ」ってやつを。まあ私がいなくなっても課長は気づかないだろうけど、せめてマンガの中では気づいてほしい、クレイの本当の価値に。
見どころ③:「誰にも評価されなくていいから自由にやらせてくれ」という究極の願望
この作品が持つ一番のカタルシスって、「功績を手放した人間が、解放される」っていう部分だと思う。普通、功績って手放したくないものだ。評価されたい、認められたい、ボーナスに反映してほしい。でもクレイはそれを全部捨てて、自分の自由を選んだ。この選択が、疲れた社会人の心に刺さらないわけがない。
辺境開拓っていうジャンルもいい。誰かに命令されるわけでも、評価されるわけでもなく、自分の好きなように未開の地を切り拓いていく。怪物は強いけど、クレイはもっと強い。この「自分のペースで、自分の実力で、自分だけの世界を作る」感覚。これは現実逃避とかスカッと系とかいう前に、もっと根本的な「自由への渇望」みたいなものだ。月曜から金曜まで誰かの指示で動いて、土日は洗濯と掃除で潰れる私にとって、この「自由に生きていきます」ってタイトルの響きがどれだけ眩しいか。
でもさ、結局こうやってマンガを閉じたら明日も会社なんだよね。辺獄じゃなくてオフィスに出勤して、怪物じゃなくてExcelと戦う日々。クレイは辺境で自由に生きていくけど、私はここで不自由に生きていく。……でもまあ、だからこそこのマンガを読む時間が尊いんだと思う。画面の中だけでも「自由に生きていきます」って宣言できるクレイを見てると、なんか少しだけ呼吸が楽になる気がするんだよなぁ。気のせいかもしれないけど。
見どころ④:荷物持ちの気持ち、事務職の私にはわかりすぎて辛い
「荷物持ち」っていう肩書き、地味に刺さる。勇者パーティーの華やかなメンバーの中で、目立たない裏方。これ、会社で言うと事務職そのものじゃん。営業がバーンと契約取ってきて、企画がキラキラしたプレゼン作って、で、その裏で見積もり作成と請求書処理してるの誰だと思ってんの。私だよ。荷物持ちだよ。クレイ、お前は私だ。
でもクレイは実は最強だったわけで、私は別に最強じゃない。Excelのマクロがちょっと組めるくらいだ。それでも、「裏方が実は一番すごかった」っていう物語に、事務職の人間が胸を熱くしない理由がない。タナカ課長、聞いてる? 荷物持ちを舐めるなよ。……と、マンガを読んでる間だけは強気になれる。月曜の朝には忘れてるけど。
あと「邪魔になりたくないから消える」っていうのも、飲み会断って帰ってきた今夜の私に刺さりすぎる。私もただ邪魔になりたくなかっただけなんだよ。疲れた顔でビール飲んでても場が暗くなるだけだし。クレイの気持ち、たぶん飲み会を断ったことがある全ての社畜が共感できると思う。
ユウの本音まとめ
正直、異世界モノはもう何作読んだかわからないくらい読んでるけど、この作品はあらすじの時点で「あ、好きなやつだ」ってなった。「追放されてざまぁ」じゃなくて「自分から去る」っていうのが決定的に違う。誰かに強いられたんじゃない、自分で選んだ自由。そこに【鑑定】と【模倣】っていうチートスキルが乗っかって、辺境を切り拓いていくっていうんだから、面白くならないわけがない。
クレイという主人公の在り方が、なんか沁みた夜だった。功績を求めず、評価を求めず、ただ自分のやりたいように生きる。私にはできないことを、マンガの中の彼がやってくれている。それだけで読む価値がある。髪を乾かし忘れた頭がちょっと冷たいけど、心はあったかい。
明日も会社だ。荷物持ちの日々は続く。でもまあ、帰ったらまた続きを読めると思えば、朝の電車にも乗れる気がする。クレイが辺境で自由に生きていくように、私はスマホの中で自由に生きていく。それでいいじゃん。それでいい。

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