有給取った平日、布団の中でダラダラとスマホをいじっていた。別に体調が悪いわけじゃない。心が限界だっただけ。月曜から木曜まで、タナカ課長の「これ今日中ね」を四日連続で食らって、金曜の朝に「あ、無理だ」ってなった。有給の理由欄に「私用」って書いたけど、正確には「精神の緊急メンテナンス」である。で、布団から一歩も出る気力がない私は、とりあえずスマホの電子書籍アプリを開いた。おすすめ欄に出てきたのが『とんがり帽子のアトリエ』。表紙の絵がもう、ただの漫画の表紙じゃなかった。なんていうか、美術館の一枚みたいな繊細さで、「え、これマンガ?」って二度見した。
とんがり帽子。魔法使い。少女。……なんかもう、このキーワードだけで疲れた三十代の心がざわつく。子供の頃にワクワクしてた、あの純粋な気持ちを思い出しそうになる。いや、思い出したくて有給取ったんだっけ。違うか。とにかく、表紙の美しさに引き寄せられるように試し読みを始めたら、気づいたら布団の中で三時間が溶けていた。洗濯機を回す予定だったのに。掃除機もかける予定だったのに。全部どうでもよくなった。この作品、やばい。静かに、でも確実に、心を掴んでくる。
今日のユウのため息 ── 理不尽なクレーム対応 ──

…まあ、愚痴はこのへんにして。今日の本題いくわ。
作品情報 ── とんがり帽子のアトリエ

| 作品名 | とんがり帽子のアトリエ |
|---|---|
| 作者 | 白浜鴎 |
| シリーズ | とんがり帽子のアトリエ |
| ジャンル | ファンタジー, SF, 異世界系 |
あらすじを読む限り、この作品は「魔法使いにあこがれる少女・ココの物語」。ココは小さな村に住んでいて、ずっと魔法使いになりたかった。でもこの世界では、生まれつき魔法を使えない人は魔法使いになれない。しかも魔法をかける瞬間を見ちゃいけないっていうルールまである。要するに、「才能がないと夢は叶わないよ」って世界から言われてる状態。……うん、なんか現実社会みたいだね。
でもある日、村を訪れた魔法使い・キーフリーが魔法を使うところをココは見てしまう。見ちゃいけないものを見てしまった。そこから始まる「絶望と希望の物語」。一行でまとめるなら、「魔法の才能がないと思っていた少女が、禁断の真実に触れて運命が動き出す話」。異世界転生とかチートスキルとかじゃなくて、最初からその世界に生きている女の子が、世界のルールそのものに挑んでいく。そういうタイプのファンタジー。これ、地味に重い。でもだからこそ、刺さる。
見どころ①:「魔法」の仕組みが美しすぎて、ため息しか出ない
あらすじを読んだだけでも伝わってくるんだけど、この作品の魔法は「生まれつき使える人だけのもの」として世界に定着しているらしい。で、一般人は魔法がかかる瞬間を見ちゃいけない。このルールが、物語の根幹に関わってくるっぽいんだよね。「なぜ見てはいけないのか」「その秘密の裏に何があるのか」。こういうの、設定厨の私にはたまらない。異世界ものって、チートスキルでドーンみたいなのも好きだけど、世界の仕組みそのものに謎が仕込まれてるタイプは別格。
しかも「魔法を使えない子が魔法使いに憧れる」っていうの、要するに「持たざる者」の話なわけで。私たちの現実だって同じじゃない? 生まれた環境とか、持って生まれた才能とか、そういうので「お前には無理だよ」って線を引かれる。ココが感じてたであろう「諦め」の感覚、三十代の事務職にはちょっと痛いくらいわかる。夢を諦めた経験がある人間には、序盤の設定だけで胸がぎゅっとなる。
そこにキーフリーっていう魔法使いが現れて、ココは「見てはいけないもの」を見てしまう。この「禁じられた知識に触れてしまう」展開、ファンタジーの王道だけど、やっぱり興奮する。パンドラの箱的な。知ってしまったらもう戻れない。あらすじに書いてある「絶望と希望の物語」っていうフレーズ、重い。軽い気持ちで読み始めたのに、気づいたら作品の世界にどっぷり引きずり込まれてる。この吸引力が、この作品の世界設定の底力なんだと思う。
ファンタジーの世界設定って「すごい魔法バーン!」みたいなのも楽しいけど、こういう「世界のルールそのものに秘密がある」系は、読み進めるたびに新しい発見がありそうで、ページをめくる手が止まらなくなる。布団の中の有給がこうして溶けていくわけです。
見どころ②:ココ、お前は私だ(と勝手に思ってる)
主人公のココ。魔法使いに憧れてるけど、才能がないから諦めてた女の子。……これ、二十代の頃の私じゃん。いや、別に私は魔法使いに憧れてたわけじゃないけど、「自分には無理だ」って夢を畳んだ経験は山ほどある。就活の時、本当はクリエイティブ系に行きたかったのに「安定が一番」って事務職を選んだ自分と、ココの「諦め」はなんか重なるんだよね。だからこそ、ココがその諦めを突破していくであろう展開に、自分の人生を勝手に重ねてしまう。
キーフリーっていう魔法使いも気になる。あらすじから察するに、ココの人生を変えるきっかけになる人物。こういう「導き手」的なキャラって、いいよね。現実の私にはキーフリーみたいな存在は来てくれないけど(来たのはタナカ課長の「これ今日中ね」だけ)、だからこそフィクションで「人生を変えてくれる出会い」を摂取したくなる。うちの職場にもキーフリー来てくれないかな。来たら多分タナカ課長が「魔法を見てはならない」って社内ルール作りそうだけど。
あと、この手のファンタジーって、主人公の周りに個性的な仲間が集まっていくパターンが多い。ココと一緒に学んだり冒険したりする仲間がいるとしたら、そのキャラたちとの関係性も楽しみ。一人で頑張るんじゃなくて、仲間と一緒に成長していく話、弱ってる時にめちゃくちゃ沁みるんですよ。月曜から金曜まで孤独に書類と戦ってる事務職の私には、「一緒に頑張ろう」って言ってくれる仲間の存在がどれだけ尊いか。ココ、仲間を大事にしてくれ。私の分まで。
見どころ③:繊細な筆致に心ごと持っていかれる「芸術的没入感」
この作品、表紙を見た瞬間に「あ、これは絵が別次元だ」って感じたんだけど、この手のファンタジーマンガで画力が高いと何が起きるかっていうと、「その世界に本当にいるような気持ちになれる」んだよね。魔法の世界の風景、衣装、小道具、そういうディテールが美しく描き込まれていればいるほど、現実を忘れる時間が深くなる。私はこれを「芸術的没入感」と勝手に呼んでる。
異世界転生もので「俺TUEEE」する爽快感とはまた違う。この作品がくれるのは、もっと静かで深い没入体験。あらすじの雰囲気からして、派手なバトルでスカッとするタイプじゃなくて、世界の美しさと残酷さを丁寧に描いていくタイプだと思う。疲れてる時って、激しいアクションよりもこういう「美しい世界にそっと連れて行ってくれる」作品の方が沁みることがある。布団の中で、スマホの画面の向こうに広がる魔法の世界に意識が溶けていく。これがまさに、深夜の——いや、有給の昼間の現実逃避。
ただまあ、どれだけ美しい魔法の世界に浸っても、スマホの通知欄にはタナカ課長からのメールが溜まっている。「有給中にすみません」じゃないんだよ。有給だよ? でもまあ、それはいい。現実に引き戻されるたびに、またこの作品を開けばいいだけの話。魔法は使えないけど、ページをめくることはできる。
見どころ④:「お前には無理」と言われ続ける全ての会社員へ
ココの「魔法使いになれない」って設定、社畜的に翻訳すると「お前にはこの仕事向いてないよ」って言われ続けるのと同じだと思うんですよ。私も入社当初、ミカ先輩に「ユウちゃん、ほんとにこの仕事やりたくてここ来たの?」って聞かれて言葉に詰まったことがある。向いてないのは知ってる。でもやるしかないじゃん、生活あるし。ココの「諦めてた」っていう感情、わかりすぎて泣ける。
でもココは、禁じられた真実に触れることで、諦めてた夢に再び手を伸ばすことになる(であろう)。これ、めちゃくちゃ勇気をもらえる構造じゃない?「もう無理」って思ってた場所から、もう一回立ち上がる話。通勤電車の中で、残業中のオフィスで、月曜の朝の布団の中で。「もう無理」って思ってるすべての働く人間に、ココの物語はきっと何かを灯してくれる。小さな、でも確かな何かを。
ユウの本音まとめ
正直に言う。この作品、最初は「表紙が綺麗だから」っていう理由だけで開いた。深い理由なんてなかった。有給の日に布団の中でダラダラしてて、たまたま目に入っただけ。でも、あらすじを読んで、最初の数ページをめくった瞬間に、「あ、これは特別な作品だ」って直感した。派手なチートスキルも、爽快な無双もない。でも、静かに、確実に、心のいちばん柔らかい部分に触れてくる。
ココの「夢を諦めていた」っていう出発点が、三十代の事務職にはあまりにもリアルで。でもそこから物語が動き出していく予感に、不覚にも胸が熱くなった。こういう作品に出会えるから、電子書籍のおすすめ欄は侮れない。タナカ課長のメールは侮ってるけど。
現実は魔法なんてないし、とんがり帽子もかぶれない。でも、この作品を開くたびに、少しだけ「まだ何かを始められるかもしれない」って思える。それってもう、十分魔法みたいなものじゃないか。……とか言いつつ、明日はちゃんと出社する。有給は消化したし。洗濯物は結局干してない。でもいい。ココの物語の続きがあるなら、明日も生きていける気がする。


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